突然、真奈の携帯のアラームが鳴った。 時間は午前5時30分。 真奈が前日起きた時間だった。 この時間に起きて、ウォーキングに出かけたんだ… そう思ったけれど、現場に足を運ぶ勇気はなかった。 カーテンを開けると空が見えた… 雨だったら、ウォーキングには出かけなかったのにと、天気を恨んだ。 ２４日に届くように送った冬物のパーカーが２３日に届いていなければ 寒くて出かけなかったかもしれないと、指定日の一日前に届いた荷物を恨んだ。 何もかもが恨めしく思えた。 今日は25日、何をするんだっけ…。 お父さん達が着いたら、警察に行かなくちゃ。 葬儀のことも詳しく決めなくちゃいけない。 頭が混乱しているから、手帳に予定を書き込もうとして開いた。 そこには真奈と一緒に行く予定だったレストランや温泉の住所があった。 その同じ欄に「葬儀」とは書けない…。 何かしていないと頭が変になりそうだった。 引越しをしなくちゃいけないのかな？ いつになるかわからないけど、時間に余裕があるわけじゃないから 今のうちに掃除をしようと思った。 お風呂場を磨いた後、洗濯機置き場を片付けようとふと見ると洗濯機の中に 洗濯物が洗い終わって入っていた。 真奈はウォーキングから帰ってきて干すつもりだったんだ…。 そう思ったら、真奈が戻って来られなかったことが急に現実に思えてきた。 初めて声を上げて泣いた。
前日、会社の同僚に事故のことを伝えたけれど、ちゃんと上司の方にお知らせしなければいけないと思い、就業時間を待っていた。 ちょうどその時、真奈の携帯にその方から電話が入った。 これから訪ねて下さるとの事だった。 そうだ、真奈が亡くなったから弔問なんだ… テーブルの上に昨日お土産に買ってきたお菓子がのったままだったことに気付いた。 真奈が好きだったお菓子を買ってきたのに… 真奈はもう食べられなくなったんだと改めて思い知らされた。 少しして会社の部長さんと課長さんがいらした。 何を話したのかあまり覚えてはいないけれど、真奈がお世話になっていると言っていた事や、真奈から聞いていた話しをしたように思う。 お父さん達が着いてから警察署に行くこと、葬儀についてはその後に決めるということを話すと　 またその頃に来て下さるということになった。 葬儀のお手伝いもしてくださるというので心強く感じた。 お父さん達が着いて、部長さんと課長さんと共に警察に行った。 真奈と対面したり、遺族調書を作ったり、葬儀屋さんと打ち合わせをしたりした。 本当は遺族調書はもっと日をおいて作るそうだけれど、私たちは次に上京する機会がいつになるかわからないので、この日にしてもらった。 葬儀の打ち合わせが始まった。 北海道とは違う東京でのやり方を教えてもらいながら決めていった。 祭壇を選ぶとき、お姉ちゃんと同時に 「お花でいっぱいにして欲しい」と口にしていた。 もう、花嫁姿を目にすることもない… 結婚を祝うこともない… せめて祭壇を華やかに、お花でいっぱいにしてあげたいと思った。 お父さんは何も言わず、私たちの思うように決めさせてくれた。
お通夜の日、予想以上にたくさんの人が来てくれていた。 真奈の友人には二人だけ連絡したのだけれど 「わかる範囲ですが…」と言いながらも大学のゼミ サークル、4年間住んでいた学生会館の友人にまで 報せてくれたので大勢の友人が集まってくれた。 会社の関係でも大阪からわざわざ来てくれた方もいた。 真奈はたくさんの人に愛されていたんだと思った。 真奈が出会って、一緒に過ごしたお友達とお別れの機会が出来てよかった… 心からそう思った。
平成19年10月29日 　　　お父さんと真奈と3人で鎌倉に行く事を楽しみにしていた日。 　　　真奈美は小さな骨箱に入って、私の胸に抱かれ北海道に帰ってきました。