突然の別れ



平成19年10月24日
どうしてこの日だったのだろう…
あの日からずっと考え続けている
いくら考えても答えなんて出るはずもないのに





寂しがり屋で甘えん坊だった次女の真奈美は、大学進学を機に親元を離れ、東京に就職して2年目の夏が過ぎていました。
学生時代は、夏休み・冬休みなど 長期の休みを利用して帰省していましたが就職してからは帰って来られるのは1週間くらいになってしまいました。      
そこで、真奈美が帰って来られない分、私たち夫婦が遊びに行って一緒に過ごすことを楽しみにするようになっていました。

そして、あの日もちょうど一週間の予定で遊びに行く日でした。
24日の水曜日に私が一足先に行き、主人は週末の27日に合流し東京近郊を観光する予定でした。

楽しい一週間が始まる筈だった24日…
2ヶ月も前から楽しみにしていた24日…
この日が悲しい別れの日になってしまいました





24日、マンションに着いたのは午後4時頃。


  部屋に入ったら窓が開いたまま…
    そうか、天気が良かったから
    部屋の空気を入れ替えたまま会社に行ったんだね

  ベッドの上には携帯電話が充電器に繋がったまま…
    あらあら、今朝は寝坊して忘れていったんだね
 

  貸してねと言っておいた室内着用の服は…
    ちゃんとベッドに並べてあるから
    早速借りて着ちゃうね


  今日の夕飯は真奈の好きな炊き込みご飯にしよう…
    でも、炊飯器にご飯が炊き上がったままになってるね
    そうか、携帯を忘れるくらい慌てて出かけたんだから
    お弁当を作る時間も朝食を食べる時間もないよね

  新しいバッグを買ったと言っていたのはこれだね…
    かわいいのを買ったんだね
    今日は別なバッグを持っていったんだね
  


何も変わったところのない部屋の様子。
こうして真奈が仕事から帰ってくるまで、 テレビで再放送の「相棒」を見たり
飛行機の中で読みかけていた本の続きを読んだりしながら時間を過ごしていた。
忘れていった携帯電話に何度か会社の部長さんからの着信があったけれど、
勝手に出るわけにはいかないと思い、そのままにして真奈の帰りを待っていた。

いつもなら仕事が終わって「今から帰るね」とメールをくれたけれど
今日は携帯を忘れているのだからメールが来ないことも不思議ではないし
翌日は有給を取って一緒に温泉に行く予定で、少し残業してくるかもしれないと
言っていたので、遅くなっても不自然に思わずにいた。


7時半になってお父さんに「真奈はまだ帰ってこないんだよ」と電話をした。
「お母さんが来ることなんて忘れてるんだよ」と 
からかわれながら、いつものままの時間が流れていた。





携帯に今度は会社の同僚から着信があって、なんとなく妙な気がして見てみると
「今日、会社を休んだのは何かあったの?」と心配するメールだった。

   え? 何? 
   真奈は会社に行ってないの?

   だって、部屋にはいないのに…
  
   そんな筈ないよ…
   今日はこのバッグじゃないのを持って出かけたんじゃないの?

頭が混乱したままテーブルの横にあったバッグを見ると、中に財布と定期が入ったままだった。

   え?
   携帯も、財布も、定期もここに残っている…

   
これじゃ出かけられない!!
   
どこに行ったの?

慌ててお父さんに「真奈が行方不明になった!!」と電話をした。
動揺していたから、電話をしながら部屋からも見渡せる狭いベランダを
隅々まで探したり、浴槽の中を見に行ったり…
電話の向こうではお父さんが
「本当にいないのか?どうしたんだ」と言っていた。

   わからない…
   今日は会社に行ってないって。
   会社の人から心配してメールが来た…
   携帯も、財布も、定期も残ってる…
   どうしたの…、どこに行ったの…

でも、狭いワンルームマンションをどう探しても見つかるわけもなく
警察に捜索願いを出すことになった。
今考えると110番すればいいことなのに、その時は交番に連絡するものだと思っていて、電話番号もわからないし土地勘がないのでまず管理人さんに相談しようと管理人室を訪ねた。

管理人さんから、実は昼間会社の上司の方が「欠勤しているのだけれど」と
心配して訪ねてみえていたと聞かされた。
その時は、若い女性なのでどこかに遊びに行ってしまっていることもあるだろうと捜索願いは出さず様子を見ることにしたということだった。
でも、今日母親が来るのにどこかに遊びに行く筈もなく、部屋に携帯も財布も定期も残っているのはおかしいと警察に連絡することになった。
その前にマンションの防犯カメラで出かけている姿を確認したほうが良いだろうということになった。

最近、出勤前にウォーキングに出かけていることを伝え早朝の部分から見せてもらった。時間をかけて防犯カメラの映像を巻き戻し、少しずつ見ている時間がもどかしかった…。でも、先ずは出かけていることがはっきりしないと警察に届けられないんだと思って頑張って見続けた。



そして、ついに…
5時40分頃にマンションを出て行く真奈の姿が見つかった。



それからすぐに管理人さんが警察に電話をかけてくれた。
「住人が朝出かけたまま行方不明なんです。一人暮らしの女性で、たまたま今日からお母さんが遊びに来ているんです」と伝えてもらい、そこからは直接警察と話をした。
出かけた姿を防犯カメラで確認したこと、その時間、服装、ウォーキングのコースを話すと真奈美の年齢とキーホルダーの特徴を聞かれ、その後、本所警察まで来てくださいと言われた。

その時は、行方不明か捜索願の届けを出すために警察に行くんだと思っていた。
「本所警察署がどこかわからないんです」と言うと迎えに来てくれるというので部屋で待つことになった。

部屋に戻り、お父さんに真奈が朝マンションを出た姿を確認したこと、これから警察に行って捜索願を出すことを伝えた。

胸が苦しいほど心臓はドキドキしていた。
体が震え、手も足もどんどん冷たくなっていた。
でも、これから真奈を探さなくちゃいけないんだから
しっかりしなくてはと思っていた。
部屋の中で「真奈、お母さんが絶対真奈を見つけてあげるから!!助けてあげるから」と何度も叫んでいた。